第8回 堀井紀壬子 女子教育奨励会理事
「ダイバーシティを超えてインクルージョンへ」
私はNPO JKSKの理事であると同時にNPO GEWELの代表理事も勤めております。私たちがNPO GEWELを設立し、2004年1月5日が登記した記念日でしたので、今年で6年目に入りました。この5年間、はじめは名前どおり(Global Enhancement of Women’s Executive Leadership)女性たちがもっと企業や組織で責任あるポジションについてほしいと願い、さまざまな女性活躍支援活動を行ってきました。ところが、「女性・女性」と言っていると男性の反発が強く、賛同も得られないのです。そこで2005年くらいからは「ダイバーシティ=多様な考え方や生き方を持つ個人の違いを認めよう」ということで、年齢、国籍、障害の有無などの、組織の中のさまざまな個人の個性を認めあうという視点に立って、日本社会が本当に個人を尊重する環境を作り出すことに力を入れて、企業に対するコンサルティングなどの活動を行ってきました。
その間、世の中でも少しずつ「ダイバーシティ」という言葉が理解されるようになりましたが、近頃の懸念は「ダイバーシティ=女性活躍推進」という図式が定着しつつあるということです。「ダイバーシティ」という言葉がアメリカ合衆国の人種差別から出てきたため、外見的な「違い」から、日本では男女が「ダイバーシティ」の第一優先課題になっています。確かに、日本社会で女性の能力が生かされていないことは課題であり、JKSKもその面でさまざまな活動を行っています。しかし、「ダイバーシティ」の本質は、性別、年齢、国籍、人種などの明らかな違いだけでなく、個人個人の生き方や価値観、経験などの内面的な固有な違いをも含んでいます。
私は世界に、2009年1月28日現在67億5409万1100人の人がいるとすれば、同数の「ダイバーシティ」が存在すると思います。(今、世界の総人口とグーグルで検索しましたら、刻々と人数が変わる表示が現れました。「世界の人口」というサイトです。http://arkot.com/jinkou/ この時点でまた世界中で新しい命が生まれているなという実感が湧きます。お試しください。)
この地球上のすべての人々が、生まれてきた意味を持ち、自分の生きている価値を認められれば、安易に人の命を奪う行動はなくなるのではないか、他人を尊重するということからも「ダイバーシティ」は重要な考え方だと思うのです。
またダイバーシティというと「違い」が強調されますが、アメリカのダイバーシティ研究の第一人者、ルーズベルト・トーマス博士の定義では「Diversity refers to any mixture of items characterized by differences and similarities」 ということで、「違いと類似性」が「ダイバーシティの要素」だと言っています。外見は違っていても同じ宗教、信条を持つ人はいるはずです。ですから「ダイバーシティ」という言葉であまり「違い」にこだわるのは、議論を矮小化しないかと危惧しているのです。詳しくはトーマス博士が2006年に発表された「Building on the promise of Diversity」という本をご参照ください。
この定義から導き出されるのが「Diversity & Inclusion」 です。組織の中で違いや類似性を認識するだけでは、組織の活力は生まれません。人々がお互いの個性や強み、価値観を尊重し、認めあう「Inclusive」な環境をつくることで、組織の活力が生まれてくるのだと思います。また「ダイバーシティ・マネジメント」も単なる違いを認識するマネジメントから、組織のメンバーの個々の能力を認め、彼らの強みを伸ばすことで、成果を挙げる行動に導くことではないかと考えます。
とはいっても、すべてのメンバーに「Inclusive」な環境だと認識してもらうことは非常に難しいことです。現在、GEWELでは、Inclusivenessの定義、Inclusiveな環境(職場)を作るためにはどうしたらよいか、Inclusiveness を実践するリーダーシップとは何かなどの、勉強を始めました。JKSKが過去に研究された「Inclusive Leadership」 と関連もあると思います。
人種差別とか、人を排除しないということは言葉で言うのは簡単ですが、実行は実に難しいです。一人ひとりの内面にある、人生の経験から生まれた考え方や、好みなどが、無意識に他人を判断し、「Inclusive」でない行動をとる、または相手に否定的なメッセージを与えてしまいます。
昨日、某大企業の「ダイバーシティ・フォーラム」でその会社の社長が、「ダイバーシティは、それぞれの人々の違いを理解し、受け入れ、個性を生かすことだということは、言葉では理解しているが、本当にそれができるのか、ほとんど不可能ではないか」と言われていました。正直な方だなと思いました。でも不可能であり、個人の価値観が変われないとしても、行動をInclusiveにする努力を怠ってはならないと思います。これから、その社長に「よし、自分も行動だけは変えてみよう」と言わせるぞ!とひそかに作戦を練っているところです。
2006年はJKSK、CSRフォーラムと共催した「Diversity推進シンポジウム」によりDiversity 元年だと思っていますが、今年2009年は「Diversity & Inclusion」 元年にしたいと思います。NPO GEWELとNPO JKSKが協同して日本のDiversity & Inclusion推進にむけて、メッセージを発信していきましょう。
2009年2月
堀井紀壬子 略歴
1969年、東京大学経済学部卒業。
日本航空、外資系乾電池メーカー日本韓国総支配人秘書をへて、エイボンプロダクツ株式会社に22年間勤務。販売企画、新規事業企画、営業推進、経営企画部門など企画部門を経験し、最終の4年間は営業本部長として、営業戦略の立案、実施、効果測定を行うと同時に約700人の営業本部部員を動機付けながら、厳しい環境下、売上、利益の増加、経営目標の達成を実現した。
2001年末エイボンプロダクツ株式会社退職。
2003年7月、日本女性の活躍を願う友人たちとGEWEL(Global Enhancement of Women’s Executive Leadership)を設立。9月東京都にNPO法人申請を提出し、同12月認証。2004年1月5日登記。
現在は日本の社会で「Diversity & Inclusion」 を実現するために、主として企業のDiversity推進のコンサルティング、社員意識調査、講演活動を行っている。
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