日時 2009年11月24日(火)15時から17時
場所 六本木ヒルズクラブ・ラ クッチーニ(個室)
現実的なワークライフバランスの方法
【講師】清水朋宏氏 (FQ JAPAN 発行人)
清水(朋):「FQ JAPAN」は父親のための雑誌です。ワークライフバランスでいう「ライフ」には様々なものが含まれると思いますが、私は男性にとっての育児参加は、ライフに目を向けるひとつの大きなきっかけであると思います。この雑誌は、お陰さまで3年間続いております。本日はその3年間の取材の中で印象的なものをレポートさせていただくという形でお話をさせていただければと思います。
まず、ワークライフバランスは「ライフ」の部分の充実が基本。首都大学東京教授の宮台真司さんは取材の中で、「仕事にアイデンティティを見出す人は多いが、何が起こるかわからないという今の時代ような経済状況下では、ジョブステータスと自尊心を結びつけることは難しい。その中で、子どもを持つ人にとっては家族や地域社会の中で自己実現していくことが幸福の追求に近道」とおっしゃっていました。また、前回のこの研究会の講師でもありました株式会社ワークライフバランスの小室淑恵さんも、「私生活こそワークライフバランス。私生活の充実によって仕事もモチベーションも上がり、発想も豊かになり、結果的に仕事の成果にもつながる」と述べています。そのようなことから、子育て世代の人たちにとって「ライフ」をいかに充実させていけるのか、という話をしたいと思います。
ライフの充実1: 「妻を恋人にする」-ライフは子育てだけではない
子どもが出来ると育児に集中してしまいがち。しかし会社で仕事に取り組んでいるのと同じような感覚を育児に持ち込むと、いわゆる「モンスターペアレンツ」になりかねないという懸念があります。「うちの子を勝ち組にしたい」という教育熱です。ところがフランスの第一線の小児科医アルド・ナウリ氏は講演の中で、「男は育児をする必要がない」という極論を述べ、とても驚きました。彼が言っていたのは、一般的に子どもと接する時間は母親のほうが長いのだから、そこは母親に任せ、男性にとってはいかに奥さんとの関係を良好に保ち、奥さんの信頼を勝ち得るかこそが大切だ、ということでした。つまり、母親が夫の良いイメージを持ち、それを子どもに伝えていれば、父子の関係も良好になるのです。
「育児をしなくていい」というのは極端な言い方で、もちろんした方がいいのですが。ただ、実例としてバックナンバーから拾ってみると、多くの「忙しいお父さん」が妻との信頼関係について言及しています。
工藤公康選手:「(妻が)僕の知らないところで“お父さんは凄い。お父さんが頑張っているから私たちが暮らしていけるんだよ”と子どもに伝えてくれている。(中略)遠征から帰ってくると、(子どもが)“パパお帰り”と笑顔で迎えてくる。妻の気遣いがなければ、1年の半分以上も家にいない父を好きにはなってくれるはずがないと思います。」
つるの剛士さん:「僕がいないときでも、僕のことを子どもたちに話してくれてる。(中略)奥さんのお陰で子どもたちがちゃんと僕の背中を見ててくれていて、しかも“パパみたいになりたい”なんて思ってくれて。」
また、前出の宮台さんは大学生対象の調査データで「両親が愛し合っていないと感じて育った子どもは、性愛経験の人数は多いが、恋人のいる率が少ない」という結果があることから、子どもとの密な関係よりも夫婦仲こそが重要で、子どもが人を信頼できる人間に育つかどうかにつながると述べています。
別のデータを見てみますと、「夫婦の愛情傾向が子どもの抑うつ状態に影響を与える」こと、「子どもの世話をする父親群は、しない父親群と比較して子どもからの評価が圧倒的に高い」ことなどがよくわかります。後者の表では、世話をしない父親群でも唯一評価が良いのは「(お父さんは)仕事を頑張っている」という項目。それ以外の、たとえば「やさしい」では世話しない父親群が59%なのに対し、世話をする父親群は96.5%も獲得しています。
木全:企業戦士として会社で長時間労働をしている=良いというイメージはないですよ。逆に、「勉強しないと、お父さんみたいになっちゃうわよ!」という悪い父親像を母親が持っていた時代も非常に長かった。
佐渡:家にいる時間が長いとやはり評価は高いですね。私の友人は、夫が編集者でいつも家で仕事をしているから、子どもは「お父さん、ただいま!」と家に帰ってくる。逆に外で働いているお母さんには犬しか迎えてくれない、と嘆いています。
笹田:その場合、逆に旦那さんが「お母さんはがんばっているんだよ」とちゃんと伝えていれば違うかもしれませんね。
ライフの充実2: 「パパ友を作る」
清水:「パパ友を作る」という活動は、安藤さんがファザーリング・ジャパンでやっていらっしゃる活動そのものでもありますね。パパ友を作れば、まず育児情報が集まります。他の家がどうやって子育てしているのか、自分へのモデル、サンプルが増える。それによって修正もできます。それから、家族ぐるみの付き合いができれば、子どもがいろいろな大人のロールモデルに出会うことが出来ますし、子ども同士も仲良くなれます。そうは言っても、男性というのは女性同士のように地域コミュニティーやネットを介して気軽に友達になることはなかなか難しいんですよね。どうしても見栄やプライドが邪魔をして、相手の職業や地位を探ってしまう。だから、最近増えてきた、学校での父親の会などを積極的に活用すると良いと思います。
ライフの充実3: 「地域で子育て」
子育てというのは自分の家だけで完結するものではありません。自分の子も周りの大人に影響されます。そして自分の子以外の子どもたちも、同じ地域の未来を担っていく存在であるわけです。また、父親にとって地域コミュニティは、自分の役割を見つけることで自己実現ができる場でもあります。たとえば前出の宮台さんはお祭り好きで、地域のお祭りに子どもと一緒に参加することから、地域との交流を深めていったとおっしゃっていました。FQのライターで4人の子どもを持つ菅原晃さんは、「町内会の班長や役員になってしまえば、いきなり地域の顔役になることが出来る。子どものために住みよい環境を求めるのなら、パパ自らが労力を惜しんではダメ。」というような意見を述べています。
ライフの充実4: 「親との距離を縮める良い機会」
子どもを持つという時期は、ちょうど自分が大人になって親との関係が疎遠になってきた頃。子どもが、自分と親との関係を縮めるのに一役買ってくれることがあります。スウェーデンのエリックさんという方にインタビューをしたときには、「週に2度ほど夫婦の時間を設け、そのときは両親に子どもの面倒を見てもらっている」と話していました。両親にとっても孫との時間は喜んでもらえるもの。
また、僕自身の経験で言えば、僕は先ほど木全さんがおっしゃったようなパターンで、「父親みたいにはなりたくない」と思って育ちました。でも最近父親がIターンで高知県へ引っ越し、子どもの顔を見せにというのもあって子どもと一緒に高知県へ訪ねて行きました。そのときに父と過ごした時間で僕は初めて、「父みたいになるのも、いいな」と思えたんです。子どもがいなかったら、会いに行こうとも思わなかったかもしれない。そういう意味では本当に良いキッカケになってくれたわけです。子どもによって、父親との関係がより近くなりました。
ライフの充実5: 「育児で自分を成長させる」
「ベビーマッサージ」など赤ちゃんとのスキンシップによって親は癒しを得、また親としての愛情を自覚できる、と産婦人科医の善方裕美先生(よしかた産婦人科副院長)は話しています。また、親というのは、子どもができたことで環境問題に関心を持ったり、仕事に対しての取り組み方を見直したりと、育児を通して成長できることは多いんですね。男性は特に、基本的に自分が大事という動物。ですから自分を頼る子どもという存在が出来て、子どもに気持ちを移していく中で学ぶことは多いです。
アン:今は男性でも、小さい犬を買っている人が多いと聞きます。それで癒されている。子どもを育てればよいのに。
木全:男性だけではなく、東京では女性も含めて30%の人がペットを飼っているというデータがありますね。
安藤:今はおままごとをすると人気の役はママではなくペットです。それはかわいがってもらえるから。親が憧れの存在ではないのですね。今の憧れの職業ナンバー1は、ティッシュ配りのお姉さん、そしてマックのお姉さんです。理由は、いつも笑っているから。つまり母親は笑っていないということではないでしょうか。だから僕はいつも「笑っている父親になろう」と呼びかけているんです。
育児の様々なアイディア
- 子育ては楽しむもの …父親は子どもと対等に遊べる存在
- 子どもと一緒に自然と触れ合う …自然に触れることが、創造性、探究心、感性を育む
- 子どもと散歩やランニングに出かける …散歩ひとつでも、子どもにとっては大きな経験。ご近所さんに会う良い機会でもある。家にこもらず、外へ出よう。日本ではまだ珍しい「バギーランニング」(ベビーカーを押しながらの軽いランニング)もお勧め。
- 趣味を共有する …自分が楽しめることに子どもを巻き込もう。僕自身も、子どもが3歳になったときからパターゴルフに連れて行って、今では随分上達。子どもと一緒に時間を過ごせる趣味を持つことをお勧めする。趣味がない男性は、子どもが出来たのをきっかけに、子どもと一緒に趣味作りをするのも良いのでは。
- 父子でお出かけ …休日の公園も父子の姿が多くなってきた。母親抜きの「父子旅行」など、全て父親自身が決めなければならず、大変だけれど非常に楽しく、成長できる。
- 質の高い会話を心がける …自分の気持ちを素直に子どもに伝えることで、子どもは自分に何でも話してくれるようになる。
- 仕事を見せる~「昼間のパパは男だぜ」 …忙しいお父さんは、仕事姿を見せるというのもひとつの方法。ホワイトカラーだとパソコンの前に座っている姿しかないかもしれないが、この場合は建築家などの職人の人はとても効果的。
「FQ JAPAN」読者約100人へのアンケート
子育てについて、読者にアンケートを取りました。どうやって時間を作っているかという質問には、「平日の朝を活用する」「早く帰る工夫をする」「休日にフォーカスする」という3分類の返答がありました。
安藤:休日にフォーカス、はお勧めできませんね。義務になってしまって、「ブルーフライデー」になってしまいがち。普段から時間を過ごしていないと愛着がないし、「ママー」と逃げられたりしてしまう。少しずつでも毎日関わることが大事です。平日の朝の活用はとてもよいと思います。
清水:その通りですね。また、別の項目で「一日の平均の子どもと触れ合う時間は」という質問では、全体平均110分という結果に。ここで興味深いのは、「ワークライフバランスが出来ていると思う人」とそうでない人との間で、この時間にそこまで差がないのです。「できている」人の平均は141分。「できていない人」は平均94分。首都圏の全国平均の30分に比べて遥かに高い。この「できていない人」は、ただ一緒にいるというだけなのか、理想が高いのか…?
海外の子育てライフ
最後に、海外(欧米)の子育て事情についての資料がありますので、目を通してみていただければと思います。たとえばオランダでは、パートタイム労働やワークシェアリングの制度がとても発達しており、フルタイムと年金や給与に差がありません。これによって産後の女性の就業率がとても高いのです。(6歳未満の子を持つ母親の就業率は61%、日本は35.6%)。スウェーデンでは、パパが育休を取らないと損な制度になっていて、1年の育休が常識。パパが子育てを楽しんでいるという感があります。フィンランドでは、実子+3人の子を自宅に集めて保育ママとして面倒をみるファミリー・デイケア制度など、保育制度が非常に充実しています。
【ディスカッション】
安藤:僕もファザーリング・ジャパンを始めて3年ですが、父親の意識だけが変わっても難しいという現実があります。「政治・行政」「企業の働かせ方」「地域コミュニティ」「家族」という4つのドメインで考えていかないといけません。特に家族というのは、「うちの息子におむつなんてかえさせて!」というお姑さん、「育休なんて世間体が悪い。早く偉くなって…」という妻の両親、「私の育児に手を出さないで」という妻など、実は一番の難関です。地域性もありますね、大分県では父親の一日の育児時間は平均5分です。
木全:企業にしても行政にしても、皆保守的な人たちの集まりです。今から教育しなおすなど不可能。行動は、若い人がどんどんやったら良いと思います。頼っていては始まらない。
北里:例えば経団連にとってのワークライフバランスは、少子化対策委員会から来ています。「少子化対策」としてのワークライフバランスなのですね。
安藤:あとは、日本ははやり外圧に弱いので、外国事例を出すこともとても大事。ドイツでは従来「三歳までは母親が面倒を見る」という「三歳児神話」があり、そういう点では保育制度の発達が遅く日本と似ている事情がありました。3年前からワークライフバランスが最重要テーマとして掲げられるようになり、まず始めたことは言葉を改めること。育児や家事も労働として認めようということで、育児「休業」ではなく、「親時間」制度、つまり親として次世代を育てていくための労働をする時間ということで賃金を払う、という認識を、メディアなどを通じて大々的に広めていったんです。
日本人は勤勉だから、休むことに抵抗がある。だから僕は「育児修行」と言っています。タイムマネジメント、リスクマネジメントを学ぶための修行であると。「休みます」というと抵抗がある上司も、「修行してきます」なら「行ってこい、帰って貢献しろ」となるわけです(笑)
北里:今のような話を聞いていると、自分は親としてダメだったなと思います。ただ、私は3度外国に住みました。そのときだけは、違ったんですね。環境が違うから、そうせざるを得ない。
木全:言葉を変えるというのは素晴らしいアイディアだと思います。休む、ではないですよね。ぜひ言葉を変えるところから始めましょう。
清水(敬):キャッチフレーズは大事ですよね。先ほどのFQの特集「妻を恋人にする」もいい。それと同じように、育児休業についても新しい言葉を作り、発信したいですね。 |