日時 2008年3月24日(月)15時から17時
場所 パレスホテル IVYハウス(B2)
BTにおけるワークライフバランスの推進~人々のために、会社のために、コミュニティーのために~
【 講師 】北里光司郎氏 (BTジャパン株式会社 会長)
北里:私の経歴は、1960年に富士通に入り、人事教育をやり海外担当になった。その間、25年間海外事業を担当し12年間を海外に駐在している。その後、海外営業本部の本部長になった。BTには、10年位前からかかわっている。WLBに関する問題意識としては、企業で担当していたというよりは、ヨーロッパで生活をしていたころWLB施策が社会政策にまで及んでいることなどに接し、個人的な関心も強い。
以下、北里氏の講演要約
最近、日本の経団連少子化対策委員会、ACCJ(在日米国商工会議所)その他、企業セミナー等でWLBについて話す機会を得た。
そこで感じたのは、日本ではWLBがちゃんと理解されていないのではないかということだ。
簡単に言えば一部の経営者の意見として、「WLBとは、楽して働かないことを推進する施策」だと思われているように思う。また、WLBが、時短を推進するのであれば賛成しないとか、余裕があればやってもいいがとか、女性のためのものではないかなど。また、一方でWLBはコストがかかるものという認識があるようだ。ヨーロッパではむしろやってあげるものではなく、会社が利益を上げるためにやるもので、社員にも利益があるものと捉えられている。英国では、WLBは利益があると70%の経営者が回答している。
このように日本では全体が理解されておらず、矮小化された形で認識されてきていると感じた。
今、なぜワークライフバランスか
今、企業では、24時間365日顧客へのベストサービスを要求されている。月曜から金曜まで9時から5時までの勤務形態だけでは顧客の要求にこたえられなくなってきている。
この傾向は英国で強くなっている。また、社員には、個人的なさまざまな事情があり、子育てや介護をしたり、自分の学習をしたりするようになってきている。
最後に、持続可能な社会の実現のため、CO2の削減が緊急の課題となってきている。
こういう背景からワークライフバランスが必要不可欠となってきているのである。
ワークライフバランスとは、
「人々がいつ、どこでどのように働くかを自分自身でコントロールし、クオリティの高い生活を享受することである。仕事における個人の権利が、個人、企業、社会に利益をもたらす規範として受け入れられ尊重されることによって実現する。」
BTでのワークライフバランスを語る際に、3原則がある。
原則1、仕事で大事なことはどこで働くかという場所ではなく、何をするかという内容である。仕事と場所を切り離したこと。
たとえば、BTでは、本社は英国にあるが、国際営業本部長はブラッセルに自宅があり、彼はブラッセルで2万人の部下の指揮を執って仕事をしている。
原則2.WLBは企業が社員のために行う福祉コストではなく、企業や社員双方にメリットがあり、経営戦略上の重要な投資と位置づけるべきである。
CEOがWLBの推進は、経営戦略上不可欠な投資であることをコミットメントする。
原則3.会社はさまざまなメニューを選択肢として提供し、個人はそれを取捨選択し最適なWLBを構築するその効果は常にデジタルに把握すべきである。
結果を公表し、数値化して効果をシェアしている。
BTグループとは
BTは売上高日本円で4兆5000億円、従業員数10万6200名(2007年3月)のグローバル企業である。世界50カ国に事業所をもち、170カ国以上で取引を行っている。
BTジャパンは1988年、約20年前にできた。現在150名ほどの従業員がいる。
ダイバーシティの進んだ会社で、英国の会社であるが、CEOはオランダ人だ。これは日本のNTTの社長が韓国人になることと同じことである。
またさまざまなアワードを受賞している。たとえばダウジョーンズのサステナビリティの賞は7年連続でNO1テレコムに選ばれている。
BTのフレキシルブルなワークスタイル
在宅勤務は、13%が完全在宅勤務のワークスタイルで働いている。まったく出勤しない人たちで、営業部長などは顧客に近い場所で働き、自宅から顧客先へ直行し、自宅へ帰る。またソフトウェアエンジニアは自宅で仕事をしている。週に一回は電話会議をし、月一回は必ず集まっている。勤務の一部を在宅で行い、残りはBTや顧客のオフィスで行う部分的なホームベースドワーキングは、70%の従業員が行っている。
このように自宅をベースにした働き方は進んでいる。コールセンターなどは在宅勤務の方が成果を挙げているといわれている。このほかに、集中勤務、総勤務時間は同じだが、勤務日数を減らして月から木曜まで働き、金曜は子どもとの付き合いや学校のサポートにあてるなど。ジョブシェアリングは、一つの仕事を複数で担当する。緊急のときにカバーしあう働き方である。
その他の働き方のバリエイションとしては、ローカルワーキングやタイムバンキング(超過勤務をためて学校の休みなどにあわせて消化する)、リミテッドワーキング(勤務時間を合意の上に設定する。学校の学期中のみの勤務など)、年間勤務時間(年間の総勤務時間を設定し、状況に合わせて勤務するように自分で自由に働き方を決められる働き方)、フレックスタイム(仕事上のニーズに合わせてコアタイムを設定し、開始時間と終了時間をフレキシブルにする)、長期休暇制度や自由勤務などかなり自由度の高い勤務形態もある。
長期休暇などは、ヨットレースやトゥールドフランスに参加するなどに使われる。この制度を活用して、プリンスチャールスの秘書を2年務め、その後王室についてのエキスパートとして活躍した人物もいる。津波のあとインドにいって孤児院で1年間ボランティア活動をした人もいる。
このような休暇をとることは会社から推奨されており、人事部がアレンジをしている。不在中、不利益がないように休暇の前後についての詳細なガイドブックがあり、休暇中にメンターが定期的に連絡をとっている。また、直属の上司がノーと言った場合、その上司を飛び越して申請をしてもOKである。
WLBが進んだ背景
このようなワークライフバランスの推進が進んだ背景には、90年代のブレア政権がある。当時、英国は、長時間労働で労働力が流動化しておらず、命令型のマネジメントスタイルが横行しており、ワークライフバランスは欧州のなかではもっとも遅れている国だとされていた。そこで政府と主要企業が集まって協議し、2002年エンプロイメントアクトが成立した。これは6歳以下の子どもをもつ親はフレキシブルワークを要求する権利をもつというものである。BTでも実際には2000年に入ってからブロードバンド化も手伝って、テレカンファランスやホットデスクの設置などが進んでいった。
こうして2000年に入ってから英国のWLB推進活動は急速に、実際に動き出したといえる。
WLB実行する際のアドバイスとして
マネージャー教育が重要である。マネジャーとフレキシブルワーク制度をとりたい人は、1-1でミーティングをし、仕事の目標設定とその評価をする。マネージャーはすぐに断ってはいけない。また、「どうしてやるのか」というような価値観の議論をしてはいけないとアドバイスしている。むしろ実行可能かどうかの話し合いをし、今回はだめであっても、別の方法がないか、次回のレビュー時に可能性を探るなどして積極的に推進することが大切である。反対に、ホームベースの仕事を強要してもいけない。
ホームワーキングでもオフィス勤務でも待遇などに差別はないこと。給与に差がないことも重要。ホームワーキングのほうがアウトプット(結果)が高いことが多い。
トップのコミットメントの下、人事政策担当ディレクターがリーダーシップをとること。
BTのWLBの推進リーダーであるキャロライン・ウォーターズ氏は、会社と社員双方に利益があがるように常に最大の配慮をしている。
また、推進が進んだ仕組みとして、英国産業界の各社が相互に連携し、独自で行っているWLBの推進方法を、企業間でシェアしたことも挙げられる。
WLBを推進して達成した実績
まず、退職率が下がった。英国平均の16%をはるかに下回り、BTでは2.8%になった。また出産休暇後の女性の98%がBTに復帰している。再雇用のための費用、教育費などのコストを大幅に削減したことからも、これは大きな成功だといえる。
また、メンタルヘルスの改善にも役立っている。英国では5人にひとりがメンタルヘルスに何らかの問題を抱えているといわれている。BTでは精神疾患による退職者が80%減少した。
経済的効果としては、通勤費の削減があげられる。通勤手当を年間21億円削減し、事務所費の削減としては、ロンドン中心部のオフィス一人当たり費用は年間380万円になる。在宅勤務者に必要なインフラ機器などの費用65万円を差し引くと一人当たり年間315万円節約したことになる。(1万人で315億円の節約)
そのたとして、採用コストの削減(12億円)や、CO2排出量の削減(54,000トン)や石油の消費削減(1,200万リットル)などがある。
まとめとして
ワークライフバランス推進要因としては、ブロードバンド技術の進展がある。仕事と生活が区別されるようになったのは、もともと産業革命以降のほんの200年から250年のこと。ブロードバンドの進展により、仕事と生活の自然なバランスを回復する自然な流れが生まれている。
社会的責任投資(SRI)が後押しをしている。金融コミュニティが投資判断の基準として一定の社会的責任を果たしているかどうかを重要視するようになっている。年金ファンドの87%がSRIを重視することから、株価に直接影響する経営上の課題となっている。
地球温暖化も後押しする役割である。最後に、グローバル市場の優れた人材を獲得するためには、選ばれる企業にならないといけないことがあげられる。
WLBを具体的に推進していくには、さまざまな障壁があるが、なにより必要な要件としては、従業員に対する信頼、経営陣のコミットメントとリーダーシップ、慣れ親しんだ文化習慣からの脱却を図る意識改革である。
日本での課題
長時間労働や職場の人間関係、適さない住環境があげられるが、地域のコミュニティセンターなどにホットデスクを置いて、そこで仕事をするようにしてもいい。日本での一番の課題は正規社員と非正規社員との格差が大きいこと。非正規社員の雇用調整により人件費をコントロールするという雇用戦略がWLBを阻む壁となっていると思う。
しかし大きな流れとしては今後は、フレキシブルに仕事ができる「どこでもオフィスになり長寿社会になり。仕事教育リタイアなどのサイクルも柔軟になるだろう。企業は個人に選択肢を提供し、個人は状況に応じ自由に選択をしながら能力を提供していくようになる。そうした企業により優秀な人材が集まるようになっていく。
Q&A
木全:経団連などでWLBの話をされて、可能性があると思われる企業はどこか。
北里:資生堂は積極的に取り組んでいるように思えた。委員長の池田相談役(前社長)が命を大切にする経営をしたいといわれている。
堀井:ワークライフバランスの推進にはトップのリーダーシップが必要だが、
日本の大企業のトップは何も言わないことが多い。ベンチャー企業や中小企業ではどうか。
北里:個別の名前は知らない。創業者企業で前向きに取り組んでいる所があると思う。
清水:非正規社員を正規社員にするといっているのは、ロフト、オオゼキ、ユニクロなどだ。
堀井:日本でも制度を作ってはいるがなかなか進んでいないようだ。
パナソニックはテレワークをやっているが・・・。
北里:日本では上から、コスト削減から入るからモラルが下がる。たとえば、明日から営業には机がないよ、という。逆にストレスが強くなる。
パク:パナソニックのEワークは対象者は3万人ほどだが、実際にやっているのは1000人程度。つきに何回Eワークをするのかは人によって違う。
堀井:私も700人の営業マネジャーたちは全員直行直帰だった。ボイスメールで報告を受けるが声で状態がよくわかった。ずっと顔を見ているよりわかりやすいし、いいと思う。
パク:日本の場合、ジョブディスクリプションがないから、評価が難しい。
木全:BTジャパンの状態はどうか。
北里:完全なホームワーカーはいない。70%ぐらいがオケイショナルホームベースドをやっている。週2日くらいの人が多い。
日本の場合、PCを外に持ち出せない、外から会社の情報にアクセス出来ないようにしている会社が多い。個人情報保護の問題のためだが、情報にアクセスする為には会社に行くしかない状態だ。セキュリティの厳しさについての取り扱いの発想が誤っているのではないか。世界はどんどんオープンになって「どこでもオフィス」の考え方になって行くのに、日本ではこれが時代に逆行していると思う。
パク:ジョブホッピングの問題もあるが、どこにいてもイントラにアクセスできるのは危険ではないか。日本の企業はプリントアウトさせないところが多い。そういう問題ではないと思うが。
北里:日本の場合は、結局「信頼」がないのではないか。会社で仕事をしないと信用しないシステムを作っている。どこで仕事をしてもセキュリテイが保たれるシステムにすべきだ。
古市:時差がある人たちを集めてミーティングをするのは大変なのでは。
北里:逆に時差を利用してプラスにすることができる。顧客から見ると夜中に問題解決ができて喜ばれることもある。時差の関係で、夜中の10時から電話会議をすることがよくある。全世界の人がローカルな電話番号に電話をかけ、パスコードを入れると会議に入れるシステムがあり、世界の仲間が常に繋がっている連帯感をもっている。
パク:経団連でのWLBに関する講演の反応は?
北里:基本的には、WLBを進めないといけないという感じはある。少子化対策委員会では、もっと女性に子どもを生んでもらいたいから、その環境つくりとしてWLBが大事だという考え方だと思う。
木全:経団連で北里会長のお話を聞きたいとしたことは、一歩前進かも知れないけど少子化対策委員会で・・・というのは、まだまだ、問題認識の狭さを感じますね。社会経済生産性本部でも、2007年の運動目標のWLB推進は、「父親の子育て参加とか、出産、育児を終わった女性の職場復帰の場の確保」というニュアンスであったが、2008年の運動目標であるWLB推進は、「働く者が、自らの人生と仕事を見つめ、人間力をたかめられるよう、働き方、暮らし方を改革することが重要であり、WLBの推進を労使、国、自治体、コミュニテイも含めて国民運動に・・・」というように変化してきている。日本社会のネガティブなところを見ていても何も変わらない。変わっていっているところ、よいところを認め、賞賛しどんどん前にすすめていくことが重要。
堀井:経団連では、ダイバーシティも「女性活用」であり、ワークライフバランスも社員の子育て支援という理解だ。本当の意味を理解させるにはまだまだ辛抱強い活動が必要。 本意ではないが、そんな程度だからもっと女性に期待をかけて、どんどんアファーマティブアクションでもやっていかないと社会は変わらないかもしれない。 |