日時 2008年11月25日(火)15時から17時
場所 パレスホテル IVYハウス(B2)
Case StudyⅠ「日産におけるWLBへのチャレンジ」
【 講師 】古市充氏(日産自動車株式会社 トータルカスタマーサーティスファクション本部 サプライヤー品質保証グループ)
木全:本日は、ご多用な中、ご参集下さいましてありがとうございます。本日はケーススタディの第一回目として、日産自動車株式会社でダイバーシティ推進をなさっておられ、現在はトータルカスタマー・サティスファクション本部でご活躍の古市充さんに「日産におけるWLBへのチャレンジ」と題して、現在までの取り組み、中長期見通しなども含めてお話をいただきたいと考えております。その後、様々な経験をお持ちの参加メンバーの皆様と共に意見交換をしていただき日産の次なる躍進にお役に立てればと思っています。
古市:今日はレジメに沿って、会社全体の取り組みと現場レベルでの取り組み、今後の課題の4点を話したいと思います。間に質問があればどんどん質問していただきたいと思っております。
まず自己紹介ですが、私は1992年に日産自動車に入社し、工学部出身ということもあり、生産部門の技術者としての工場勤務でした。そのうち2年間販売会社に出向になり、埼玉県で営業マンをやる経験も得ました。その後2004年、社内公募に応募し、ダイバーシティディベロップメントオフィスに変わり、ダイバーシティ推進を担当することになりました。その後今年2008年にトータルカスタマー・サティスファクション本部(TCSX)サプライヤー品質保証グループで自動車部品サプライヤーの品質保証の仕事に従事しています。家族は妻と娘(小学校3年)でうちは栃木にあり、週末だけうちに帰るという単身赴任生活をしています。
私がWLB推進に関して感じている課題は、社員の自発性が弱いということです。位置づけとしては、トップダウンとして上から唱えられているダイバーシティ推進と労働生産性向上、それからすべての社員の働き方・生き方を豊かにするというボトムアップ型の考えの3つから成り立っています。アプローチとしてはトップダウン型とボトムダウン型があり、日産は文化としてトップダウン型は得意だが、ボトムアップ型、ボランタリーや草の根活動などが弱いと感じています。
では、会社全体の取り組みからお話します。まず、私たちの行動指針:日産ウェイと2008年4月からの中期行動計画の中に盛り込まれていることが挙げられます。行動指針日産ウェイは、1999年にルノーとアライアンスを組んで復活するプロセスで得たエッセンスを10項目にまとめ、今後これにもとづいて仕事をしようというものです。そのマインドセットの第1番目にあるCross-functional,Cross-culturalがダイバーシティ推進を表しており、Power comes from inside すべては一人ひとりの意欲から始まる と締めくくられています。
また日産中期経営計画のコミットメントには、第1番目に品質領域でリーダーになることが示されています。品質を柱に入れたのは初めてのことで、その品質の4つの領域、商品、サービス、ブランドおよびマネジメントの質の向上を図るとされています。
これを受けて特にマネジメントの質の向上を図るため、全従業員サーベイを行い、チェックをしています。
日産のダイバーシティ活動としては、推進体制としてダイバーシティステアリングコミッティーとダイバーシティディベロップメントオフィス(DDO)の二つがあります。ダイバーシティステアリングコミッティーはダイバーシティに関する意思決定を行う最高機関で年に3回開催されます。議長はCOO最高執行責任者で、メンバーは各部門の代表役員からなっています。ここではダイバーシティは重要な経営戦略の一つと考えられており、推進のための目標、施策、提案の承認や成果確認、方針決定などが行われます。
問:ダイバーシティは経営戦略といわれたが、どんな結果を求めているのですか。
古市:狙いは売れる商品を作ること。コンペティティブアドバンテージだと思います。私自身はダイバーシティは即効性を期待するのではなく、効果が現れるのに時間がかかる漢方薬のようなものだと思っています。
ダイバーシティディベロップメントオフィス(DDO)はダイバーシティを強力に推進していくためのリーダー的な役割を担っている専門組織です。2004年秋に設立され、人事部門とは別の組織にし、施策を大胆に推進できる組織として独立しています。最初は国内の女性を対象に女性管理職の増加を目標としてきましたが、今は対象が拡大しつつあります。
9名の専任がおり、4名がマネージャー職で、あとの5名は派遣社員も含めた一般職でやっています。
ダイバーシティ推進の柱は次の4つです。1多様性を尊重する(ダイバーシティマインド)、2、男女の違いを生かす(女性の能力活用)、3 文化国籍の違いを生かす(カルチャーダイバーシティ)、4多様な働き方ができる(ワークライフバランス)
まず、女性の能力活用をテーマとしてスタートし、カルチャーダイバーシティを追加しました。女性の能力活用では、マネジメント層に女性を増やし、質を担保するためにアドバイスやトレーニングも実施しています。また販売店や工場で働く女性へのサポートも行っています。
問:外国人の受けいれはどのくらいでしょうか。
古市:日本の日産には1%しかいません。階層が高くなるにつれ増えていき、役員は約4分の1が外国人です。私自身は、カルチャーダイバーシティが重要だと感じています。
ダイバーシティ活動におけるWLBの取り組みとしては、育児・介護に関する施策の充実と施策の使いやすさの2点を実施しています。育児支援施策は小学校6年生までの子供をもつ親を対象に、やれることはすべてやっているくらい充実しています。
ただ在宅勤務は子供がいるか、要介護者がいる人に限定されているので、こうした施策が子供や要介護者がいる人だけの特典のようになってしまうのではないかと危惧しています。
また男女ともに育児休業も取れるが、男性が取るのはまだまだまれな例です。
そのために2008年4月に、従来の結婚休暇や配偶者出産休暇などを改めて、ファミリーサポート休暇として、年最大12日そのうち5日間は有給休暇という制度に改め、「仕事と生活の調和推進プロジェクト」としてチラシをつくって社員に配布しています。そのほか、休職中の社内ネット閲覧制度などをつくり、休職中であっても社内イントラネットにアクセスできるようにしたりしています。簡単そうに見えますが、実施までに時間がかかりました。こうした作業を地道にやっていくことが大切だと感じています。
WLBのマネジメントとしては、PDCAを実行して、次世代育成計画にのっとって施策を実行し、来年度の計画更新のためのチェックをやろうとしているところです。
最後に、労働生産性向上の取り組みについてです。残業をさせないなどは、直近1,2ヶ月注目されている動きですが効率的な働き方のマインド向上は以前より活動しています。
専門家や先進企業のトップを招いて講演会を開催したり、社内WEBに役員メッセージを掲載したりしています。私自身は、役員の話だけでなく、一般社員の話も心に響くのではと思っています。
そのほか、会議の効率化推進運動として、5つのルール(ペーパーレス、移動レス、1時間、目的確認、その場で議事録)を設け、会議の中ですべてを完結させるようにしています。ITツールの支援やテレビ電話会議、ファシリテーター養成なども実施しています。
現在、DDOからはなれた現場で何ができるかと考え、自分が伝道師となる。完璧を目指さない、すぐ動く、ボトムアップ、賛同者を見つけて輪を広げるなどの活動をやっています。
WLBの勉強会を単独で実施するのではなく、ナレッジシェアの場を作ったうえで、その一環でWLBの勉強会をするという形をとりました。
ナレッジシェアの場作りとしては、2週間に1回金曜の午前に課内で「わくわくミーティング」を開いています。聞いてきた講演会の話をしたり、メンバーが話したりするようになりました。おかげで部内にも広がり、月一回定時内の一時間で「おしえるまなべる会」を実施しています。ここでも、ナレッジシェアの輪が広がり、勤続30年の社員の知見を話してもらったりもしています。
その上で、WLBを身近に考える勉強会として、30分で理解できるWLBエッセンスを詰め込んだ内容のものを開催しました。WLBは自分自身のことであること、自分で解決することを柱に、ワークとライフのWINWINの関係や時間の使い方の理想と現実のギャップを知ってもらうなどのプログラムを作っています。同時にダイバーシティを理解するためのプログラムも実行しています。
今後の課題としては、WLB施策の充実とWLBマインドの二つがありますが、特にマインド向上が必要とだと思います。マインドの向上には地道な浸透努力が必要です。
会社の活動の課題としては、単独施策から複合施策への転換が必要でしょう。育児中の女性だけの施策というより、本当に働きたい職場の実現への施策というように。
また景気回復時の反動を考慮する必要があります。今の景気減速時にはWLBは追い風ですが、回復時には反動で一気に元に戻るのではないでしょうか。
最後に、WLBに関して、経営者の本気度が問われています。成果は時間で買うという感覚を持っているのではないかという懸念です。
現場レベルでは、理解の次にある、実践の促進を図ることと、プライベートな時間の充実を喚起すること、どういう方向に進むのか方向性を打ち出す、自分以外の影響を及ぼせる人の育成などが課題でしょう。
今後、自部門から他部門へと理解者を広げていくには1年2年とかかるでしょう。ダイバーシティ意識が低く、WLB毎度も低いといった、これまでの典型的な男性社会にいる人もまだいますが、だんだんとダイバーシティマインドが浸透し向上してきているのを実感しています。そうした動きの中で、女性の男性化やハードに働く人とそうでない人を作るなどの新たな課題が生まれてくることも懸念されることの一つです。
木全:うつ病とか引きこもりの予備軍などが多いと聞きますが、御社ではどのようでしょうか。
古市:メンタルヘルスに対する取り組みはしっかりとやっています。しかし、予防するためのプログラムが中心ではありません。私はWLBの推進はメンタルヘルスの予防になると思います。
渥美:ルノーの影響は?
古市:ダイバーシティの施策検討においては、お互いにベンチマークをしている程度ですが、マインドにはとても影響していると思います。ルノーとビジネスをしている人にとっては女性のマネージャーは当たり前だったりしますので。
堀井:ルノーの影響は受けておられないとのことですが、エルゴミクスという考え方、疲れない生産ラインなどは、ダイバーシティにとってとても重要だと思います。実際に高齢者雇用などに効果を発揮していると聞きましたが。
古市:はい。生産ラインのダイバーシティを推進する上でエルゴミクスは非常に重要なものです。ルノーと提携したときからルノーのやり方を取り入れています。
佐々木(常):社員に対しては手厚い施策がなされていると思いますが、社外の取引先などにはとても冷たいように感じるのです。たとえばトヨタ自動車の取引先では、金曜の夜にこれをやってくれと頼まれるということも聞きます。会社を越えた配慮が必要になってきているように思います。またダイバーシティとWLBは対立軸ではないのではないでしょうか。私の考えは、ダイバーシティは企業の競争力強化のためにやるもので、違った意見がものやサービスをよくしていくものです。男性もみんな同じではなく、違いを作っていくことが大切です。会社だけではないいろいろな生活体験が違いを生みます。そのためのWLBだと思うのです。 |