キャリアの歩き方-NGOで働く(3)
それぞれの「思い」の実現をめざして
松信章子
さまざまな関わり方があるとは言え、NPO/NGOで働く人びとに共通するのは社会に対するそれぞれの「思い」ではないでしょうか。社会が変わっていくのを待つのではなく、また変革を官僚や政治家に頼るのでもなく、それぞれの選択した分野で「こうあって欲しい」、「こうあるべき」という未来に向かって、自分たち自身が中心となって、社会に働きかけ、社会を変えていこうという「思い」です。ここ何年かの社会の変化は、増してきているNPO/NGOの存在感と決して無関係ではありません。NPOやNGOが直面する問題は山積しているとはいえ、多くの人びと、特に若い人びとがキャリアとしてNGOを選ぶ背景には、金銭的なリターンには替えられない魅力があるはずです。今回はNGOで働くことの魅力を探ってみましょう。
・ 人びとの笑顔に希望を見出して
多くの場合、国際支援のNGOの現場は過酷です。紛争地や地震などの災害被災地、あるいは困窮する地域では、私たちが常日頃、あたりまえと思っている生活の便宜はまずないと思ってよいでしょう。清潔な住居や安全な飲み水はもちろんのこと、身の安全すら保障されているわけではありません。しかも、世界では紛争は収まるどころか頻発の度合いを深め、いまだに多くの難民や国内避難民発生の原因となっています。また、グローバライゼーションの波に乗り豊かになった国々がある半面、貧困の度合いを深めている国々も多く、貧富の差は以前よりも拡大しているのが現状です。
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| アフガンの小学校で |
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このような状況で、いつ果てるともしれない仕事を続けていくのは、肉体的、精神的な疲弊との戦いともいえます。過酷な現場、気晴らしの少ない生活。そんな状況でスタッフの気持ちを支えるものは、現地の人びとの生きる力、明るい笑顔や未来への希望ではないかと思います。私自身、アフガニスタンで建設した学校を訪問した時に、感謝の気持ちをこめて歌を歌ってくれた女の子たちのはじけるような笑顔に心から感動しました。日本では見ることができないような子供たちの笑顔でした。私たちの基準からみれば粗末な学校ですが、それまで学校に行けなかった子供たちやその親にとって、学ぶ場ができたということは将来への希望の象徴なのです。そして、人に希望を与える仕事は、私たち自身にも希望を分けてくれるのだと、その時心から実感したものです。
私の同僚の柴田裕子も同じ様なことを語っています。
『・・・飲み水すらない状況でも、子供たちの笑顔は変わりません。彼らの輝くような笑顔を見ると、貧しくても決して不幸ではないということを私は学びました。この笑顔に出会える喜びを忘れられずに、一度こうした支援活動に関わった人たちは、何度も現場に戻っていくのかもしれません。』
NGOの仕事は、人と人とをつなぐ仕事です。「困っている人を助けたい」という支援者の気持ちを大切にして、その気持ちを支援活動に具体化し、必要としている人びとに届ける。そんな循環の仲立ちをしながら、受益者ばかりでなく支援者とも希望を共有する。そこに何ものにも替えられない仕事の喜びがあるのではないかと思います。
・ システムを作り上げる面白さ
営利、非営利に関係なく、およそ仕事が好きな人ならば、一番チャレンジングでやりがいがあることは、新しいシステムや仕組みを作ることではないでしょうか。システムを作るということは、それが大きなことか小さなことかに関わらず、アイディアや構築力が要求される創造的な仕事です。そこで必要なのは、ビジョンを持ち、現実を把握しながら理想との乖離を埋めるための耐久性のある仕組みを描き、実行する力です。もちろん、システムといっても機械的なものでなく社会的なものですから、関わってくるのはあくまで人。ですから人に働きかける力、つまりリーダーシップも必要です。
たとえば今、スマトラ島沖地震の被災者は大変困難な状況にいます。そういう人びとに支援の手を差し伸べるには資金が必要です。どのように人びとに働きかけ、信頼を得、効果的に支援金を集めるかというのもシステムづくりですし、寄せられた支援金を支援という具体的な形で実行に移すのにもシステマティックな動きが必要です。どこの地域でどのような支援が必要とされているか迅速に調査し、どのような専門家や物資が必要かを決定し、どのように人材を確保し、どこで物資を調達し、どのように現地に運び込み、どのように被災者に配給するかなど、クリアすべき点は多岐にわたります。必要物資が現地では払底しているかも知れませんし、地震で道路や空港が破壊されアクセスが困難かもしれません。数々のチェックポイントをクリアしながら、支援の画を描き、迅速に柔軟に実行していくシステムが必要となる訳です。
NPOやNGOの仕事には「人びとの役に立つ」という喜びとともに、純粋に仕事としての面白さの余地もたくさんあるのです。存在として新しく、過去のしがらみに囚われることが少ないNPOやNGOは、身軽にいろいろなことを試してみる可能性を大いに秘めています。
・ シビルソサエティ構築への貢献
どんな分野で活動するかに関わらず、NPOやNGOがともに貢献できることに、シビルソサエティ(civil society)の構築があります。シビルソサエティは「市民参加社会」あるいは「市民主導社会」とでも訳せばよいのでしょうか、NPOやNGO、大学、財団、研究機関など、さまざまな市民団体からなる民間非営利セクターを指します。今まで公益に関する意思決定に関わってきたのは、主として行政や企業でした。第一セクターとしての「官」、第二セクターとしての「民間営利=企業」に加えて、第三セクターとして台頭してきているのが民間非営利のセクター、つまりシビルソサエティなのです。
一昔前、人びとが多かれ少なかれ同じような未来を描いていた頃と異なり、豊かになった現代の社会では市民のニーズは多様化し、もはや「官主導」による画一的なサービスや、利潤を追求するという使命を持つ企業の活動だけでは、さまざまなニーズに応えきれなくなっているのです。考えてみれば、以前は国際支援のみならず、介護、医療、教育、コミュニティー開発、環境保全などの分野のニーズはあまり人びとの口の端に上りませんでした。こういう新たな社会的なニーズを満たすことは「公益」であり、その担い手として、シビルソサエティが脚光を浴びているのです。阪神・淡路大地震や新潟県中越地震の際、自らの意思で被災地に赴き、救援や復旧という、いわば「公」の領域で目覚しい活動行ったボランティアたちの活動は、すでに社会的な認知を得るばかりか、多くの人びとの賞賛を得ています。
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| NGOの仕事は人と人をつなぐ仕事 |
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NPOやNGOが目指すところは、市民が問題を自身のものと捉え、自身で問題解決を図っていく社会です。シビルソサエティも含めた三つのセクターが、それぞれ重要な社会の構成員として対等な立場でお互いに協力しあい、より住みやすく活力ある社会を創りあげることです。NPOやNGOは、国のガバナンスを変えていく可能性を秘めています。そしてそこで働く人びとはこの点に大きな意義を見出しています。
・ セクター間の労働流通性を求めて
今、CSR=Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)やSRI=Socially Responsible Investment(社会責任投資)という言葉が注目を浴びはじめています。CSRとは、環境、人権、社会問題など、社会が抱えるさまざまな問題解決に貢献しながら企業運営を行い、それを明確に説明する責任を果たしていくということを意味します。また、SRIは企業に投資するにあたって、経済的リターンのみならず、その企業が社会的にどのような責任を果たしているかをチェックポイントの一つとして考慮しながら投資を行うということを意味します。そして、今後、企業が消費者に支持され、社会で尊敬され、その結果成長するかどうかは、CSRを果たしSRIに足るかどうかが鍵になる時代が来るといわれています。
このことは、企業とNPO/NGOなど民間非営利セクターが、その考え方において大きく距離を縮め、ともに社会の抱えるさまざまな問題を解決することに協力する機会が増大するということを意味し、非常に歓迎すべきことです。そしてこの機運を盛り上げていくためには、各セクター間の労働流通が何よりも重要になるのではないかと思います。
もし、NPOやNGOで経験を積んだ人材が企業に転職し活躍する場が与えられれば、企業は新たな視野を得るばかりでなく、CSRやSRIの面で強力な陣を敷くことができるでしょう。それはとりもなおさず、企業の体質強化につながります。また、企業で実績を積んだ人たちが非営利セクターに転出することがもっと一般的になれば、その経験・知識やネットワークを活かして、社会を変えていくような大胆な仕掛けやシステムを作り上げるのに貢献することができるかもしれません。
そして、もし、米国のように「官」と「民」の間で人材が相互にしかも頻繁に流通したら、NPO出身の厚生労働大臣とか、NGO出身の環境大臣やODA担当者というのも、考えられないことではありません。学者が金融・経済財政政策担当大臣になっている例もあるのですから。こういう人材の流動性が高まれば、日本の社会はもっと活力を増すに違いありません。もちろん、セクター間の給料格差を少しでも埋めることが流動性促進の要件にはなりますが、終身雇用や年功序列が崩れ、社会の流動性が以前よりも増した今、このようなセクター間の人材流動もそんな遠い夢ではないように思います。
2005年2月
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